日本でも知名度の高いブラジルの代表的なチーズパンといえば、「Pão de queijo (ポンデケージョ)」だ。「Pão(パオ)=パン」「de=の」「queijo(ケイジョ)=チーズ」という意味で、ポルトガル語でそのまま「チーズパン」である。パンと言うものの、酵母やベーキングパウダーは含まれていない。ポンデケージョの弾力性と膨張作用は材料となるタピオカ粉から発生している。生地にチーズがたっぷり練り込まれ、外はカリッカリで、中はもちっとした食感。ブラジルで朝食や軽食で親しまれ、甘い入れたてのコーヒーと焼きたてのポンデケージョは最高だ。
今回は、ブラジルのチーズパン、本格ポンデケージョのレシピを紹介するよ。
手作りの焼きたてポンデケージョは、もう最高なんだよね!
目次
ポンデケージョの発祥地はブラジル南東部のミナス・ジェライス州
実は、ポンデケージョの起源ははっきり明らかになっていません。しかし、18〜19世紀頃にブラジル南東部のミナス・ジェライス州からレシピが生まれたと言われています。この地域は昔から酪農で有名な地域として知られています。農場の料理人がパンを作るのに、小麦の代わりにタピオカ粉を使用し、地域の特産品であるチーズや牛乳を加えて完成したそうです。
昔からブラジルの地に住む先住民の間では、ブラジルが発見される以前にタピオカ粉の原料となる「キャッサバ芋」を粉状にしてパンを作っていたと考えられています。
ある一説では、ブラジルのチーズパンのレシピには、アフリカから連れてこられた奴隷達が関係していると書かれています。金の採掘を求めてミナス・ジェライス州に人口が急増した17世紀後半から18世紀。金を求めて植民地のブラジルに訪れた人々が、ブラジルの地は小麦の栽培に適していないと認識すると、先住民が主食として食べていたキャッサバ芋に目をつけました。
キャッサバ芋は、小麦の代替としてブラジルに訪れた人々の主食となりましたが、奴隷達には十分な食事は与えられません。そこで、キャッサバの加工中に出た澱粉 (タピオカ粉) を奴隷達が小さなボールにし、焼いて食料の足しにしていました。これが、ポンデケージョの原型となり、その後、19世紀頃にミナス・ジェライス州で酪農が盛んになると、余剰にあるチーズや、牛乳などを混ぜるようになったというお話です。
キャッサバ粉とタピオカ粉の違い
ブラジルでは、ポルトガル語で「マンジオッカ」と呼ばれる「キャッサバ芋」が日常を通してよく食べられる。日本人は「タピオカ」の原料と聞くとわかりやすい。尚、キャッサバ粉とタピオカ粉はどちらもキャッサバ芋を原料とする為、混合されがちですが、実際には別物です。
キャッサバには、青酸性の毒を含んでいるものと、無毒のものがあります。
無毒のものはそのまま皮をむいて煮たり、フライ等して食べられますが、毒を含むものは、当然ながら、毒を取り除く作業をする必要があります。
キャッサバを洗って皮を向き、すりおろし、細かい目の布でこされ、何度も水にさらします。こうする事で、毒を含んだ汁を取り除きます。
この時、容器の底に塊になったデンプンは、「デカンテーション」という沈殿物と液体を分離する方法を用いて取り出されます。その後は、毒を取り除いたキャッサバも、副産物として取り出された澱粉も太陽の下で乾燥させられ、粉状にされます。
そうです!もう、わかりましたよね!?
キャッサバ粉を作る時に、副産物としてできたデンプンだけを集めた粉が、「タピオカ粉」です。
キャッサバ芋全体を使用して作られた粉は「キャッサバ粉」になります。
栄養的にもキャッサバ芋全体を使用した「キャッサバ粉」の方が全体的に豊富に含まれおり、特に食物繊維の量が「タピオカ粉」よりも多いです。また、風味も異なり、「キャッサバ粉」はナッツのような風味があるのに対して、「タピオカ粉」は独特な風味がないので、料理に影響を与えません。
「キャッサバ粉」と「タピオカ粉」は、異なった特性はあるものの、どちらもグルテンフリーで、小麦粉の代替品になります。
タピオカ粉「Polvilho Doce」と「Polvilho Azedo」の違い
ポンデケージョを作る為、タピオカ粉 を購入しようとすると、粉が2種類あるのに気が付きましたでしょうか?
疑問に思われた方もいるでしょう。
「Polvilho Doce ( ポルビージョ ドーセ )」と「Polvilho Azedo ( ポルビージョ アゼード )」です。
「Polvilho (ポルビージョ) 」は「澱粉」と言う意味を表し、DOCE(ドーセ)は「甘味」、AZEDO (アゼード) は 「酸味」を示します。
実は現地のブラジル人でも、ポンデケージョを作る時のタピオカ粉に種類があったなんて知らない人も多い。ポンデケージョは、ブラジルの至る所で売られているものの、地域や作る人によって数多くのレシピが存在する為、味や見た目が多少違っていても気にならない事が多いからでしょう。
さて、この2種類の粉の違いですが、それは製造プロセスにあります。
「Polvilho Doce ( ポルビージョ ドーセ )」と「Polvilho Azedo( ポルビージョ アゼード )」は、デンプンを抽出する為のデカンテーションの長さが違います。
っと、言ってもシックリこないのですが、
つまり、デンプンを液体の中で沈殿させる際、液体の中に置いておく時間が違うという事だと思います。違っていたらスミマセン・・・。
「DOCE」は、デカンデーションが18 ~ 24時間続きます。対して「AZEDO」では、「DOCE」と比べて遥かに長く15~ 40日間です。「AZEDO」はこの期間に発酵し、酸味のあるデンプンに仕上がります。そして、その酸度は「DOCE」の5倍あると言うので驚きです。
これらの違いにより、この2種類の粉は、それぞれ料理の仕上がりにも違いがでます。
甘いデンプンである「DOCE」は料理に弾力を与え、他の食材を結びつける接着剤のような働きをします。「DOCE」を使用したポンデケージョは綺麗に丸く焼き上がり、密度の高いパンになり、冷めるとゴム状になります。
対して、酸味のデンプンである「AZEDO」は、酵母の役割をします。「AZEDO」を使用したポンデケージョは生地の中に気泡を作り、膨張性がある為、生地が大きくなります。中に気泡ができる事で、変形し、空気を含む為、軽くなるのも特徴です。こちらは冷めると、乾燥した感じになります。
この2つの特徴のバランスをとるために、両方の粉をミックスするレシピもあります。どちらの粉を使用するかは完全に好みで、どちらもポンデケージョレシピで使われています。
ポンデケージョに使用するチーズ
ポンデケージョで使用するチーズは、本家のブラジルでも、地域や家庭によって異なります。実は、ポンデケージョのレシピも統一されておらず、様々なオリジナルレシピが存在しています。
中でもチーズはポンデケージョに大量に入れるので、当たり前ですが、チーズの種類によって味が変わってしまう、とっても大事な材料です。
筆者が様々なブラジルレシピを拝見した中で、ポンデケージョ作りで最もよくある組み合わせと思ったのが、「モッツァレラチーズ」と「パルメザンチーズ」の組み合わせです。
また、ポンデケージョ発祥の地とされている本場ブラジルのミナス・ジェライス州では、ミナス州で生産されるチーズを使う事が多い印象です。例えば、ミナス州のカナストラ山脈で作られる「カナストラチーズ」。わずかなスパイシーさと中程度の硬さでポンデケージョにもよく使われます。
中々、国外へ出回ることのないチーズらしいのですが、米国サイト「ザ・テイスト・アトラス」の消費者が選んだチーズでヨーロッパの有名チーズを抑えて1位を獲得しているほど美味しいチーズだそうです。
私は、食べた事ありません。
国外では中々手に入らないチーズのようなので、ブラジルに行く事があれば、一度は食べておきたいですね。
ちなみに、カナストラチーズと似たような風味を持つ、クリーミーで少し酸味のあるスイスの「グリュイエールチーズ」なら日本でも入手可能です。
こちらは、食べましたが、ミルキーな感じでとっても美味しかったです。普通にカットして食べたり、削ってパスタにかけたり、ポンデケージョに入れても良し。
ただ、ここ最近の円安の影響で、日本だとチーズはお高い高級品イメージが付き…
これから紹介しますが、スーパーで大量購入できるミックスチーズと、パルメザンの組み合わせでも全然美味しいポンデケージョができました。
ブラジルのミナス・ジェライスなんて行ってポンデケージョを食べたら、きっとめちゃくちゃ美味いんだろうなって想像してます。
チーズに拘りたい人は、モッツァレラチーズ、グリュイエールなど、クリーミーなセミハードチーズを使うのがおすすめ。
【動画で見る】本格タピオカ粉で作るポンデケージョレシピ
さて、ブラジル人の夫にも「パーフェクト!」と言って貰えたので、自信を持って紹介させて頂きます。ポンデケージョの作り方です。
たくさん作ったら、冷凍できるよ。レンジで15秒くらい中を温めて、オーブンで周りをカリッとさせたら、出来立てのような美味しさになるから試してみてね。
【レシピ解説】超簡単!本格ポンデケージョレシピ
材料 ポンデケージョ ( 6個分 )
- タピオカ粉 Azedo 粉 100g
- パルメザンチーズ 50g
- 好みのチーズ 40g
- 生クリーム 40ml
- 牛乳 50ml
- 無塩バター 40g
※ 塩はチーズに含まれる塩味によって加えるかどうか調整します。今回は、使うチーズに塩味が十分あるので塩は入れません。
※ 写真のチーズは一般スーパーで大量購入が可能なミックスチーズと粉チーズ使用しております。
作り方
【準備】
- オーブン予熱200度に設定。(入れる時に温度が下がるのを防止する為、予熱210度に設定して、入れてから200度に下げて焼きました。)
- オーブン用の台にクッキングシートを敷いておく。
- ボウルにタピオカ粉を100g入れておく。
- 材料は全てグラムを量ってすぐ使えるようにしておく。
【手順】
- 鍋に生クリームと牛乳、バターを入れ、周りが沸沸してくるまで火にかける。※ 焼く時に温度を下げないようにする効果。また、バターを均一に混ぜる為の効果が有るみたいです。
- 1の火を止めたら、準備しておいたタピオカ粉に入れて、ヘラなどで混ぜる。
- ある程度混ざったら、チーズを加え、手でこねながらチーズを生地に練り込む。
※ めっちゃ油でベタベタするけど、気にしないで大丈夫!
- よく混ざったら、生地を6等分にして、丸めてクッキングシートを敷いた台に並べていきます。
- 200度に予熱されたオーブンへ入れて、表面が綺麗な黄金色になるまで焼きましょう。(大体20分〜30分くらい)
黄金色になったら完成です!
オーブンから出した熱々の状態が一番美味しいよ。外は本当にカリカリ。中は伸びる!!もちもち食感。
コーヒーと一緒に食べるのが、おすすめだよ。
めんどくさがらず、失敗に気をつけて〜
作り方1の工程をめんどくさがって、そのまま、タピオカ粉に入れて丸めて焼いたら、丸く固まらず、溶けました。(笑)
バターと牛乳・生クリームをレンジで加熱して人肌温度にしてから入れたりもしたのですが、これも、大失敗。
原因は、おそらく「焼く時に温度が下がり、粉が固まる前にバターが溶け出してしまった。」のではないかと思います。なので、オーブンの予熱と、1の工程は重要ですよ!
そして、焼き過ぎは硬くなるかもですので、注意。
まとめ
子供も大好きなチーズパンです。グルテンフリーなのも、嬉しいです。日本ではチーズの値段が高いので、大量購入できるミックスチーズでも十分美味しくできるので、おすすめです。日本のコンビニなどでたまに見かける「ポンデケージョもどき」のチーズパンとは全く別物です。
ブラジルマーケットで冷凍のポンデケージョも時々購入するのですが、やっぱり、手作りの方が美味しいです。スーパーのミックスチーズでこんなに美味しいのに、カナストラチーズ使ったら、どんな味になるんだろ〜。ブラジルに行って、カナストラチーズのポンデケージョを食べてみたい…。
以上、ブラジルの本格ポンデケージョのレシピでした~。
〈参考文献〉
- 銀城泰子、他. ブラジルのごはん. 農山漁村文化協会, 2008. [ 絵本 世界の食事7 ].
- “《ブラジル》ミナス州産手作りチーズが世界一に=並みいる世界のメーカー品を凌駕”.ブラジル日報. 2022. https://www.brasilnippou.com/2022/220628-02topics.html, (参照 2023-01-13)
- “Qual a diferença entre polvilho doce e azedo? Saiba como usar no seu dia a dia”. caldo bom. https://caldobom.com.br/blog/diferenca-polvilho-doce-e-azedo.html (参照2023-01-13)