子供のいる夫婦が離婚を決意した時、日本では必ず「どちらが子供の親権を持つのか」を話し合う。しかし、多くの海外諸国では、「どうやって共同で子供を育てるか」を話し合うのが一般的だ。
父母どちらが離婚の原因を作ったのか、その状況によっては夫婦関係が悪化しており、日本人には離婚後も共同で子供を育てるというのは想像しにくい。しかし、世界では「親同士の争いは子供には関係がないので親子を一方的に離す事はできない」というスタンスで、特別な理由がない限り、「共同親権」を原則としている国も多いのだ。
以前から国際結婚では、国間による制度の違いから、親権による争いは多かった。他国で決まった共同親権を受け入れられず、日本に逃げ帰る親子もいた程だ。現状日本では、離婚後は親の一方しか親権を持つ事ができない「単独親権」のみ。しかし、その制度も今、変わろうとしている。
「共同親権」とはどのような制度なのか。どうやって親権を平等に分けるのか、その制度は国によって少し異なる。現在共同親権を導入している「アメリカ」「ブラジル」の制度を紹介する。
目次
アメリカの共同親権
アメリカ大使館によると、アメリカは全ての州で「共同親権」を選択枠として設けているようです。両親が同意すれば、「単独親権」でも可能で、一方が反対すれば、裁判所が子供の利益を考慮して命令を下します。両親が単独親権を希望しない限り、基本は共同親権だと思っていいでしょう。アメリカの親権は2つの要素で構成されています。
法的共同親権
教育、宗教、医療など、子供にとって重要な決定を下す権利です。共同親権下ではこの決定権を両親が平等に持ちます。共通の決定を下せれば良いですが、合意できない場合は、裁判所が判断する事になります。
物理的共同親権
子供と一緒に過ごす時間です。例えば、1週間母と過ごしたら、1週間父と過ごす。の繰り返し。
子供と過ごす時間も平等に半分というのは、日本人筆者の感覚からすると驚きですが、子供にとっては家が2つある感覚でしょうか…。子供の性格によっては、大きな負担がかかる気がします。
事実、この物理的な時間に関しては絶対平等!とならなくても良いらしいです。しかし、学校など子供達の生活圏も配慮して、両親が離婚しても近くに住む必要があります。
聞いた話によると、親側が近くに住むように裁判所から命令され、守れない親には親権の剥奪等の罰則もあるみたい。
両親で法的共同親権 (決定権) と 物理的共同親権 (時間)の2つの要素を考慮しながら養育計画を作成して取り決める。(例えば、隔週で父母交互に子供と住む。子供のイベントはお互い参加など)
取り決めがうまく進んでいるか定期的に話し合い、お互い同意した上なら変更も可能。という流れのようです。
父母が頻繁に連絡を取る必要がある事から、2人が協力しあえる関係にある場合には理想的でしょう。しかし、親同士が仲悪く、話し合いが円滑に進まない場合は、子供に関する事柄の決定は毎回遅れる、子供が親に気を使う等、様々な問題が日常的になり、子供に大きなストレスを与える可能性もあります。実際には、子供の為というよりも父母が双方で納得しあえる条件になる事が多いようです。
結局は、親の都合じゃん〜。
【アメリカ】家庭内暴力や虐待がある場合
一方で、家庭内暴力や虐待の懸念がある離婚の場合は、通常の調停プロセスを受けません。
裁判所から調査員が派遣され、身体検査や精神衛生士からの問診などを受けて親権を決定します。親権は適性があるとされる親にいき、「単独親権」が認められます。
問題があるとされた親には、治療プログラムを受けることに同意すれば、毎週数時間、社会福祉施設などで指導員に監視されながら子と面会できる。もし指導員が、”この面会は子供に悪影響だ!”と感じたら、面会を中止できるようになっている。
依存症や精神病だったりした親が、監視なしで面会できそうなほど回復してきた場合は、指導員と治療担当者が連携し、裁判所に報告する事ができる。
州によってこの制度運用の仕方は異なると思いますが、問題有りと認定された親にも「治療プログラム」が用意されることについては、日本と比べて手厚いケアに感じられます。
しかし、どこの国でも共通ですが、虐待や暴力の証明は複雑で難しい場合が多いのです。結局、DVを立証できなければ、裁判所は虐待者に制限をかける事はできません。暴力を受けた被害者に対して「共同親権」を承諾するように、裁判所から圧力をかける事すらあります。
例えば、こんな事が起きるかも..!
夫Aさん、妻Bさん夫婦は、Aさんの度重なる浮気が原因で離婚することになりました。
妻Bさんは夫Aさんを信頼できず「共同親権を拒否」、単独親権を希望しました。夫Bさんは、子供は関係ないとして、「共同親権を希望」しました。裁判所は、Aさんは浮気した事実があるが、虐待や暴力はなく、子供には両親が必要であるとして、「共同親権」を命令しました。
その後、Aさんは浮気した相手と一緒に住み始めます。Bさんは「物理的共同親権」でAさん宅の近くに住まなければなりません。子供の時間も平等に半分になりました。子供は離婚の原因となった浮気相手とも仲良く遊びます。Aさん、Bさん両方とも平等に養育している為、養育費は発生しません。(今回、夫が浮気としましたが、もちろん逆パターンも有)
国際結婚パターン
もし夫Aさんがアメリカ人、被害者Bさんが日本人だった場合、裁判所から共同親権を命令されているので、裁判所の許可を得ず、子供を連れて日本に帰国すれば「連れ去り」で重罪。子供を諦めて単身帰国すれば子供の親権はAさんに全て渡るでしょう。Aさんと子供の関係が良好ならば、国を越えての引越しはほとんど許可されません。Bさんが母国へ一時帰国の際にも、元夫Aさんや裁判所の許可が必要となり、注意しなくてはなりません。
共同親権って養育費もらえないんだね…。でも、考えてみたら、そうだよね。2人で養育してるもんね。
日本では、残業など仕事の影響で、平日に子供の時間を作れない別居親も結構いそうだね。
ブラジルの共同親権
さて、共同親権を採用している国をもう一つ、ブラジルの親権制度についても紹介します。
ブラジルもアメリカと同様「共同親権」が基本となり、夫婦の意思または、子の利益に害すると認められると「単独親権」も選択可能になります。
ブラジルでは、2014年に法改正され、別居後に親権争いが起こった場合は、共同親権が適用される規則となりました。これは、後に紹介する片親疎外(かたおやそがい)を防止していたり、子供に精神的な悪影響を与えない為などが背景にあります。
この改正によりブラジルの共同親権の数は増加。ブラジル地理統計院(IBGE)によると、2019年までの5年間で共同親権の適用は7.5% ~ 26.8% (3倍ちょい )になった。
しかしながら、離婚の62.4%で母親に親権が認められ、父親に認められたのはわずか4.1%で、依然として親権は母親にあるケースが多い。
親権制度の内容はアメリカと似ていますが、アメリカとは親権の分別の仕方が異なります。
子供を監護する権利
教育、宗教、医療などの子の重要な決定をする権利、子自身に代わって日常の決定をする権利、さらに、子を監護・保護する権利です。
子供の財産に関する権利
子供の法定代理人として財産の管理を行う権利。
ブラジルの共同親権では、上記二つの権利を共同で所持する事になります。2014年の法律によると、父母との間でバランス良く時間を取る必要があるとされていますが、アメリカのように子供の時間も平等に分割するという意味はなく、子供が住居を交互する必要はありません。逆に子の移動は子に取ってストレスが大きいという考えから、子供と主に同居する親は一方で固定される場合が多く、子供の生活の安定が重視されます。
実際には、子供に負荷がないとされる場合は、アメリカのように物理的に平等にしている家庭もあるようです。一般的には、同居親を決めて、別居親も日常的に子供の世話に関わるというやり方が多いようです。(例えば、学校や病院の送り迎え、放課後に公園に遊びに行くなど。)
共同親権下では、転居は一方の承諾なしでは認められず、居住地は制限されます。折り合いがつかない場合は裁判官が子の利益を優先して決めます。
権利だけでなく親の義務も強調される
ブラジルでは、離婚や別居等で生活が変化しても、「子供と親」という関係は変わらないとしており、親は子供を養育する為の責任や義務を負うというのが、法律で強調されています。
養育費では、婚姻の有無関係なく親子関係が証明できれば妊娠中から、出産費用も含めて請求する事が可能です。別居親は同居親へ養育費の支払いは義務付けされており、不当な理由で支払いを怠ると強制執行手続きができ、仮処分として逮捕される事もあります。
共同親権の場合は、養育費の支払いをする代わりに、子供への出費を折半することも可能とされている。
続いて面会交流では、親権の種類に関わらず、別居親には面会交流の権利が与えられます。これは、子供が別居親との関係を維持する為のものであり、親としての義務でもあります。別居親が面会を望まず子供が精神的な損害を被った場合には、別居親に対して損害賠償を請求できるとされている。面会交流権は裁判官の判断で、祖父母にも認められます。
面会交流の権利は日本と違って、具体的に法律の規定がある。別居親が国内に住んでいる場合には、学業休暇中に15日間連続して子供と一緒にいる権利や隔週の週末に面会できる権利、片親が遠く離れている場合には定期的にビデオ電話をする権利などが認められています。宿泊含む含まない、訪問の回数、場所や休日の過ごし方など父母で相談して決める事ができます。
また、別居親はこの面会交流を通して、”子供の利益に反していないか”、同居親または祖父母などの監護者を監視する義務も負う。例えば、(別居親の感覚で)子供に対して的確でない学校に入学させた場合など、親権の種類に関係なく別居親は提訴できる。同居親や監護者は正当な理由がない限り、面会交流を拒む事はできません。
子供のお世話は義務?現実は、共同親権でも全く監護しない親もいる
ブラジルでは共同親権が法律で規制されても、全く共同になっていない家庭も多く存在する。「頼んだはずなのに、学校に迎えにこない。」「病院に連れて行ってくれない。」「誕生日の日に電話すら来なかった」など。こういった行動は特に父親に多いようで、IBGEの記事では、「父親は共同親権に置いて必ずしも責任を負っていない」と具体的な性別を表して伝えている。
ブラジルは昔から、家庭の事は女性が担う部分が多く、現在でも子育ては女性の仕事と思っている男性の感覚も根強い。何度も罰則を受け、嫌々動く父親もいるようです。法律で親の義務も厳しく決まっているとはいえ、愛は強制できる物ではないという事が現れています。
【ブラジル】家庭内暴力や虐待がある場合
暴力・虐待など正当な理由があれば、事実調査が入り、裁判官が決定を下します。正当な理由が証明でき、裁判官が「共同親権」は子の不利益になると判断すると、「単独親権」となります。
面会は裁判所の指定する施設内で監督付きなど、制限が設けられます。
ブラジルにある片親疎外という概念
ブラジルでは、2010年から「片親疎外」という法律が導入されています。「子供が別居親を避ける時、それは、同居親が子供を悪口などで洗脳したのではないか。」という考えです。ブラジルでは、片親疎外は違法であり、片親疎外をしたと認定されると厳しく罰せられます。(処罰例は、親権剥奪、罰金、面会交流の拡大などがあげられます。)
「親が、もう片方の親の悪口を子供に言う事を阻止する。」一見、「子供の為」と思うかもしれませんが、実は、この概念には大きな落とし穴が存在します。「洗脳した」と主張すれば、子供の意見や意思は無視されてしまいます。DVや虐待で、子供が別居親を拒絶しているにもかかわらず、裁判所から誤った判断をされ、子供を守ろうとしている同居親の親権を剥奪され、子供が虐待者の監護下に置かれるケースがあります。
ブラジルでは、親権争いの際に、頻繁に「片親疎外の概念」が使われます。傾向として、性的虐待があったと告発する母親に、父親が反撃する手段として使うことが多いようです。家庭裁判所で片親疎外(または類似する概念)の適用が増加し、DV加害者がDV被害者に罪を被せる抜け道となっています。
片親疎外という考え方は、国連、アメリカ心理学会、アメリカ医師会、世界保険機関などで全く科学的根拠がなく、誤りであるとされており、認められていません。
片親疎外に関する詳しい内容はコチラの記事で紹介しています。
しかしながら、片親疎外法またその類似する概念は、ブラジル含む一部の国や人からも一定の指示があるのが現状です。
例えば、こんな事が起きるかも..!
母親Fさんは単独親権者で10歳になる娘がいる。ある日、娘が別居する父親と面会をしたくないと言い出した。母親Fさんは、娘へ理由を尋ねると、別居している父親が娘に対して性的虐待をしていると聞いた。母親Fさんは子供の不利益になるとして、宿泊を含めた面会交流を拒否する請求を裁判所に出した。裁判所が事実を調査するも、確実な証拠は出てこず、面会を拒否する正当な理由はないとして、母親を「片親疎外」の行為であると認定し、宿泊付きの面会をさせない場合には、親権変更を命じると勧告した。
実は、日本の裁判所も「片親疎外」の概念の影響を受けていない訳ではなく、面会交流調停で子供が別居親と会う事を拒否しても、「そんな事はないはずだ」と「本当は会いたいのでしょう」と調査員が子の意思を誘導する、同居親に説得するように求める事があります。
確かに、子供はその年齢が幼い程、いつも一緒にいる親の影響は受けそう。だけど、実際、片親疎外の誤った判決事例を聞くと怖すぎる。
国によって、ここまで親権制度が異なると、国際結婚は苦労しそうだよね。
こんな法律受け入れられない!って行って母国に逃亡する人も出てきそうだね。
実際にそういう事がよくあって、ハーグ条約が出来たみたいよ。
国境を越えて誘拐された子供を元の国に帰す、ハーグ条約とは?
もし、親権紛争中に子供が相手の国に連れて行かれたらどうすればいいでしょうか。日本では、「有名元スポーツ選手が自身の子供を連れ去りした」とかで、最近ニュース等で紹介されていましたが、「ハーグ条約」というものがあります。
ハーグ条約とは、親権を有する親がもう一方の親権を有する親の承諾なしに子供を連れて国境を超えた場合(連れ去り)や、一方の親から承諾を得ていても約束の期限内に子供を返さなかった場合に、子供を居住していた国に帰すという手続きを締結する国間で取り決めたものです。
日本は2014年にハーグ条約に加盟しました。
締結している国間であれば子の返還対応を迅速に対応できるようになっています。日本のハーグ条約についての窓口は、外務省領事局ハーグ条約室です。手続きは外務省のサイトから確認できます。
ハーグ条約締結の背景
背景として、世界的に国際結婚が増加し、一方の親がもう一方の親の承諾を得ずに子供を連れて国境を越える(母国へ帰る)、子の連れ去り問題が相次ぎました。各国は主権国家であり、他国の法律の影響を受けません。そこで、1980年オランダでハーグ条約が採択され、欧米諸国を中心とし多くの国が署名しました。
特に日本は欧米と違って法律が異なりました。日本の裁判手続きを通して日本へ連れてこられた子供を取り戻す事は容易ではありません。
日本がまだハーグ条約に加盟していない時、日本人が海外の裁判所の共同親権命令を無視して、一方の親の承諾無しに子供と一緒に帰国する(連れ去り)事件が多発し、日本は「子供の拉致大国、ブラックホール」などと欧米諸国から非難される事態となりました。同時に、日本がハーグ条約に加盟していない事を理由に他国の裁判所から、子供との一時帰国を拒否されるなどの問題も出てきました。
日本は、長い間、欧米諸国から締結を求められた事もあり、2014年にハーグ条約に締結しました。ハーグ条約には2022年11月で世界103か国が締結しています。
でもさ、相手国でDVを受けていて、証拠が認められずに共同親権になってしまったら、恐怖だよね。母国に逃げたら連れ戻されちゃうの?
虐待から子供を守れない?相手国で共同親権になってしまいそう
子供を元の環境に返す事が子の利益になるとは限らない事案があります。
DV、虐待、薬物乱用などで相手から必死に母国に助けを求めて逃げてきた親子です。DV等の証明ができれば裁判所で返還の拒否が認められています。しかし、海外で起こったDVの証拠を日本から集める事は難しく、立証ができないと返還の判決が出てしまう事も珍しくありません。既に日本に来てしまった場合は、国際結婚に詳しい弁護士などに相談しましょう。
望ましいのは、住んでいた国でDVの証拠を集め立証し、親権を堂々と勝ち取る事です。
ただ、現実は、現地で共同親権になってしまい、母国に逃げてくるケースが多いのでしょう。実際に日本に逃げてくる前に一旦、海外にある日本の在外公館(大使館・領総事館)に相談しましょう。支援を受けることができる可能性があります。また相談履歴を残しておく事も必要なのです。アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリス、ドイツは日本語で相談できるようになっています。財務省のウェブサイトより詳細を確認しましょう。
母国に逃げても相手国で犯罪となったり、ハーグ条約で返還されてしまう可能性もあるので、行動は慎重に!日本の大使館に相談したり、国際弁護士に相談したりする事がまず先なんだね。ちなみに、日本の法律も「共同親権」を導入する動きがあるよ。
日本もいよいよ共同親権に…。
日本では、離婚後の選択枠として共同親権を認めておらず、単独親権のみです。(2023年9月時点)
親権を獲得できなかった親は、面会交流は認められているものの、自身の子供の日常生活とは疎遠になる。面会交流は月に1回程度で数時間など、海外と比べると質素なもの。大体は、子供を積極的にお世話してきた方に親権が与えられる為、母親が親権を獲得する事が多いのが事実。もちろん、父母の双方が納得すれば、離婚後も積極的に子育てに協力する事も可能ですが、法律で規定されているわけではないので、一方が拒絶すれば、それは叶わないでしょう。
また、日本には親権を決定する重要な基準の一つに「継続性の原則」というのがあります。一方の親が勝手に子供を連れて別居を始め、安定的な生活を送っている場合、裁判所はその環境を変えない方が良いと考えます。
連れ去られた方の親は、自力で取り戻すことは犯罪となる為、法的手段を取る必要がありますが、DVや虐待でない限りは緊急性はなく、時間がかかります。子供と離れた期間が長い程、継続性の原則により、親権には不利に働きます。
子の利益から継続性を重視するのは海外でもありますが、日本の場合は、単独親権に加えて、継続性の原則から、連れ去った方が有利になってしまい、一方の親は親権を失い、子供と疎遠になっている現状が問題のようです。
先に伝えた通り、ブラジルは2014年から、別居した夫婦は共同親権が原則となるというルールから、まず離れた子供と疎遠になることはありません。
例えばアメリカは、子供が連れ去り先で生活した時間が長く、安定的な生活を送っていれば、子の利益を考慮して生活を変えるのはよくないと考えるでしょう。しかし、子供を連れ去られた親が申し立てすると、裁判所によって両方の親に比較的均等に子供達の時間が渡るように一時的に養育スケジュールが作成されます。その後、協議、調停、裁判などを通して最終的な決定が決まるという流れになります。(相手が子供を連れて)引っ越ししたからと行って別居親と子供の交流が極端に減るという事にはならないでしょう。
度々日本の親権制度は共同親権が一般となった海外層を中心に批判を受けていました。
2019年には、国連子供の権利委員会が日本の親権に関して懸念を示し、子供にとって最善の利益となる場合は、共同監護を許可する法改正をすべきだと報告書を出しました。子供が別居親と連絡を定期的に取れるようにするなど、別居親と子供が関係を維持する権利を確保するように求めました。
このような海外からの外圧を受け、日本でも、そろそろ法律が変わりそうです。2023年8月29日、日本の法務省が離婚後、父母が共に親権をもつ「共同親権」の導入案を示したとニュースが流れました。
共同親権には反対の声も。裁判所はDVや虐待の兆候を見逃さず、子供を守れるのか。
「共同親権」導入のニュースは、DVを問題としている家庭や、紛争多い家庭にとっては賛成できるものではないでしょう。賛成派も多い一方で、反対派が必死に声を上げ危険だと訴えています。その多くは、「被害者がDVや虐待から逃げる事ができない」「子供が親の板挟みになる」「関係悪化した夫婦が離婚しても尚、共同で子育てできる訳がない」と言う意見です。
「DV家庭は例外で単独親権」とは言葉だけで、家庭裁判所が、疑いある家庭のDVや虐待を正確に詳細に調べてくれるでしょうか。
現在、共同親権を導入している国でも、その制度や裁判所の運用に疑問視する人々がいます。
ニュースサイトUSA todayでは、「アメリカは約6人に1人、親権争い中また家庭裁判所の過失で、子供が亡くなっている」と伝えている。
非営利団体CJE(アメリカの家庭裁判所の制度からDV被害者を保護する活動をしている団体)は、2008年から両親が離婚または別居していたケースで、944人の子供が自身の親、または親の関係者に殺害されたと報告しました。尚、この数字は米国内全ての数字ではなく、団体のデータベースに記録されている数字。その中で、CJEは家庭裁判所の訴訟を精査し、137件の殺害は予防できた事件である事が判明しました。
944件全ての裁判記録のリソースが団体のデータベースにない為、他にも同じような予防可能な事件があった可能性があります。CJEは、家庭裁判所は事件に関与しながら虐待の兆候を見過ごし、虐待する親と子供の面会を促進するとして、その運用に疑問の声を上げています。
結局、片方の親が子供が虐待されていると訴えても、立証できるまでは、子供は加害者と強制的に一緒に時間を過ごさなくてはなりません。証拠不十分として、虐待とみなされない可能性もあります。その間に被害を受け続け、精神的に大きなダメージを受けたり、殺害される子供達がいます。後で、「裁判所の運用が誤りだった」と言った所で、もう命は戻ってきません。
まとめ
世界の動きから見ても、日本が「共同親権」を導入するのは時間の問題かもしれません。自分の置かれた立場によって賛否は別れそうですね。
各国の共同親権を調べる限り、親に可能な限り平等に子供に関する権利と負担が渡るようにしているように感じました。お互いに話し合いができる親ならば、「共同親権」は子供に取っても良い効果を与えられると思います。
ただ、海外でも問題視されているように、共同親権は万能というわけではなく、どうしても裁判所の制度を潜り抜け、虐待親との面会を強制化され、DV被害が続くという悲惨な結果にも繋がりそうな気がしてなりません。
個人的には、共同親権は反対です。共同親権は女性に不利だと思うからです。特に日本は、まだDV支援も海外より手厚くないと言われます。さらに、家事や育児の負担も女性が圧倒的に多い傾向があり、育児・家事に引っ張られて、女性の賃金も低下傾向。ここで、「共同親権」を導入しても、おそらく、平等に子供の時間を作るのは無理でしょう。結局、子供の主な負担は女性にされ、一方は子供と遊ぶだけなどで監護していると言われ養育費が減らされたり、子供を普段見ていない人が決定権だけを持つという事にならないでしょうか…。暴力だけではなく、例えば、金遣いが荒く、金銭を毎回強請られたり、脅されたり、頼み事をしてきたり、何かに嫉妬して嫌がらせをしてくるかもしれません。この場合、引越しも許されず、ずっと縁が切れず、連絡を頻繁に取る必要があるというのは、苦痛でしかないと思います。
今後、共同親権となり、「子連れ逃げ」は「誘拐」とされ、「罰則」となっていく、または、逃げても逃げれない法になるのであれば、DV相談所などの支援先が「どうような手順を踏めばこの暴力から抜け出せるのか」を明確に相談者に伝える事が重要でしょう。
まだ、改正の草案という事ですので、良い方向に変わるといいです。注目です。
参考文献
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